地球の核–マントル境界近くにおける流動方向を明らかにすることは、地球全体の熱・物質循環、ひいては進化過程を理解する上で最も重要な課題のひとつです。私たちが独自に開発した波形インバージョン手法を用いることで、3次元の異方性構造を世界最高解像度で推定することに成功しました。
推定結果から、沈み込んだ古ファラロンスラブが高密度の最下部マントル物質および外核と衝突することで、曲がりくねった動きをすることが判明しました。また、上昇流の根っこはスラブに押しのけられることで、マントルの底を移動することも示されました。古スラブと最下部マントル物質の動的な相互作用を可視化することで、地球の熱・物質循環の理解に貢献します。
(掲載誌:Physics of the Earth and Planetary Interiors, 2026年6月)

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タイトル
Interaction of a subducted paleo-slab with lowermost mantle material:
Insights from inferred radially anisotropic structure in D″ beneath Central America
(沈み込み古スラブと最下部マントル物質の相互作用:中米下のD″層における鉛直異方性構造推定からの洞察)

背景と目的
地球のマントル最下部(D″層)における物質の“流れ”を明らかにすることは、地球の熱・物質循環史を理解する上で重要です。特に、これまでは沈み込んだ古スラブがD″層まで到達することは示唆されていましたが、スラブがD″層でどのような動きをするのかは謎でした。地球内部における流れの向きを理解するには、地震波の「異方性(伝播速度が変位方向や伝播方向によって異なる性質)」構造を推定する必要があります。ところが従来の研究では、地震波データから十分な情報を引き出せないがために、異方性構造の解像度が低く、古スラブの流動方向を可視化するには不十分でした。

研究の手法と新規性
本研究では、北米で展開された稠密地震観測網USArrayにて観測された膨大な地震波形記録の水平2成分を解析しました。膨大なアレイデータに対して、私たちが独自に開発してきた、地震波形の全情報を用いる「波形インバージョン法」を適用することで、D″層の異方性構造を世界最高解像度で推定することに成功しました。

主な成果
推定したS波速度モデルから、中米下に古ファラロンスラブに対応する高速度領域を発見しました。その東側には温かく高密度な最下部マントル物質に対応する低速度領域を見つけました。推定された異方性構造を考慮すると、古スラブは単に下降するのではなく、水平→下降→水平と曲がりくねった流れを示すことがわかりました。これは古スラブが高密度の最下部マントル物質や外核と衝突して折れ曲がることを示唆しています。また、温かい上昇流は主に水平方向に流れていることもわかりました。これは、折れ曲がったスラブが上昇流の根っこを押し出していることが原因と考えられます。

地球科学的な意義
本研究により、D″層において古スラブと最下部マントル物質が動的に相互作用している様子が可視化されました。これにより、長らく謎であった「スラブの物質循環における役割」の解明に大きく貢献しました。また、上昇流の根っこがD″層を移動するという発見は、高温高密度の最下部マントル物質が局所的に集積する可能性を示唆しており、地球全体の物質循環を理解する重要な鍵となります。

論文情報
Sato, R., Kawai, K., Ishibashi, R., & Geller, R. J. (2026). Interaction of a subducted paleo-slab with lowermost mantle material: Insights from inferred radially anisotropic structure in D″ beneath Central America. Physics of the Earth and Planetary Interiors, 337, 107578.
https://doi.org/10.1016/j.pepi.2026.107578